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2024年03月29日
特許法の令和2年改正その4 第4章 「査証制度」とは

第4章 「査証制度」とは

査証制度は、新たに制定された、侵害訴訟において証拠収集するための手続きです。

特許権侵害の被害者(特許権者)は、「査証制度」を利用することで、相手方(被疑侵害者側)にある証拠を集めることができ、その証拠により侵害を証明することができるようになりました。

 

「侵害訴訟」とは

特許権者が、自ら所有する特許権が無断で使用された(侵害された)場合に、無断で使用する相手(侵害者)に対して、何らかの責任を追及するために起こす訴訟です。

具体的には、侵害者に対して損害賠償の請求や、特許の無断使用を差し止める差止請求が行われます。

 

 

査証制度創設の背景

査証制度が創設された背景には、特許権の特殊性や、それによる証拠収集手続の課題があったとみられます。

 

侵害が容易

特許権はオンラインで公開されているため、誰でも閲覧することができます。また、特許権はデータとして保存されているので物理的に対象を盗む必要がなく、時間や場所の制約がありません。そのため、比較的容易に特許権が侵害されてしまいます。

 

立証・証拠収集が困難

近年、方法の特許(製造方法や通信方法など)やソフトウェア特許が増加しており、書類や製造機械、製品など検証物を調べるのみでは侵害の有無の判断が容易ではないといわれます。侵害の有無を判断するには製品のプログラムのソースコードまで辿る必要がありますが、ソースコードは改変が容易で、また量も膨大です。

 

また、データベースを用いたソフトウェア特許については、単にソースコードを調べるだけでは侵害等の判断が難しいと考えられます。そのためデータベースの内容の調査が必要となり、書類提出命令等では対応が難しい事例が生じてます。

 

このように、被害者である原告が証拠を収集し、特許権侵害を立証するのが困難であり、さらに原告よりも侵害者側が多くの証拠を持っているという問題がありました。

 

侵害抑止が困難

特許庁作成の資料によると、特許侵害は、差止請求や損害賠償請求など民事事件として争われるのみで、刑事事件として起訴されたことがありません。特許権が無効になるおそれがあり、また前述のとおり侵害の判断が困難なため、特許権者が刑事告訴しづらいと考えられます。

 

そのため、特許権を侵害してもリスクが小さいと判断され、刑事罰などによる侵害抑止が困難だといわれます。

 

「査証制度」導入の経緯

侵害訴訟では、特許権者が、侵害者の侵害行為を立証する必要があります。査証制度が創設される以前にも、侵害行為の立証をサポートする制度として、生産方法の推定(特許法第104条)、具体的態様の明示義務(同第104条の2)、文書提出命令(同第105条)、裁判所によるインカメラ手続規定(同第105条第2項)等がありました。

しかしながら、近年増加傾向である、製造方法の特許権侵害、B to B製品など市場で手に入らないものやソフトウェア製品の特許権侵害については、証拠が相手方にあることが多く、特許権侵害を立証するための証拠集めが困難でした。

例えば、侵害が疑われる行為が、被疑侵害者側の工場等で行われており、立ち入ることなくその証拠をつかむことは困難です。そのため、既存の制度では立証が不十分である場合があると指摘されていました。

 

査証制度のメリット

すでに述べたように、特許権の侵害訴訟では、証拠収集が困難な上、裁判官が侵害事実の有無を判断するのが難しいという課題がありました。損害額の推定(特許法102条)や、文書提出命令の特則として書類提出命令・検証物提示命令(同105条)といった規定が存在したものの、解決策としては不十分であり、また米国のディスカバリーや英国のディスクロージャーのように専門家による直接的な法的拘束力を有するわけではありませんでした。

 

しかし査証手続が認められると、中立な立場の専門家が計測や実験などを行うため、当事者が証拠収集に苦心する必要がなくなります。さらに、その専門家が査証の結果を報告書として裁判所に提出するため、裁判官による侵害事実の有無の判断が容易になると考えられます。

 

 

「査証制度」は、侵害訴訟における証拠の収集手続きです。

特許権者が、侵害を証明することが難しかったような場合も、「査証制度」を利用することで、証明できるようになることも期待されます。

 

「査証制度」は、このような問題を解決することを期待して。新設されました(特許法105条の2~105条の2の10の新設)。

 

 

中立的な専門家による査証制度の創設

査証制度は、中立的な立場の専門家が特許権を侵害していると疑われる相手方の工場などに立ち入り、必要な調査を行って裁判所へ報告書を提出するというものです。令和元年の特許法改正によって、一定の要件を満たせば査証制度を利用できることになりました。

 

特許はモノではなく公開されている情報なので、物理的に盗む必要がありません。また、侵害の証拠は侵害者側が握っており、被害者側は容易に立証できません。刑事事件のように起訴が行われるものでもないため、侵害を抑止しにくいといった特殊性もあります。査証制度は、特に侵害立証の難しさを解決する手段として導入されました。

 

 

侵害訴訟を提起した後、当事者が申し立てることで、所定の要件を満たした場合に「査証制度」を利用することができます。

 

この「査証制度」とは、裁判所の命令によって、中立公正な専門家(弁護士、弁理士などが想定されます)が、相手方当事者の工場などにおいて必要な資料を収集して、報告書を裁判所へ提出するものです。この報告書は、申立人(特許権者)が証拠として利用できます。

 

相手が調査を拒んだら、査証を申し立てた当事者(特許権者)の主張が「真実である」と認められる可能性、つまり「侵害があった」と認定されます(特許法第105条の2の5)。

 

 

なお、諸外国においては、強制力のある証拠収集手続きが導入されています。

例えば、アメリカでは、証拠収集手続きとして、ディスカバリーと呼ばれる当事者の請求に基づき事案に関連する広範な証拠を互いに開示させる手続きがあります。また、ドイツでは、裁判所が任命した専門家及び執行官が立ち入る査察制度があります。

今回の改正特許法により導入された「査証制度」は、諸外国で実施されている強制力のある証拠収集手続の日本版となるものです。

 

今後の侵害訴訟

今まで、第三者による特許権の侵害が疑わしい場合であっても、証拠を集めることが困難であるため放置されていることがしばしばありました。このような状況では、侵害した者勝ちということとなり、特許権の価値が疑わしいものとなってしまいます。

査証制度が設けられたことにより、特許権の保護が有効に実行されることが期待されます。

一方、侵害訴訟が提起され被疑侵害者となった場合、査証が行われる可能性があることを認識して、訴訟対応をしていく必要があるでしょう。

 

 

 

侵害訴訟とは、特許権侵害の被害者(特許権者)が、自身が有する特許を侵害された(無断で使用された)場合に、 無断で使用した相手(侵害者)に対して、何らかの責任追及をするために起こす訴訟です。

 

具体的には、以下の責任追及をすることが考えられます。

①侵害者に対して、損害賠償を請求する(民法709条)。

②侵害者に対して、特許の無断使用を差し止めるように請求する(特許法100条)。

 

②について、特許法では、特許権侵害による損害賠償額について、民法709条(不法行為)の特則として特許法102条を定めています。

 

 

また、民法709条に基づいて損害賠償を請求するためには、相手方の故意・過失が必要となりますが、 特許権の侵害訴訟においては、侵害者について過失が推定されます(特許法103条)。

 

 

 

 

査証では、相手の工場などに立ち入って、調査してもらえるのです。

相手が、調査を拒んだ場合は、査証を申し立てた当事者、基本的には特許権者の主張が「真実である」と認められる可能性があります。

つまり、「侵害があった」と認定されます。

 

新設された特許法105条の2の5を見てみましょう。

 

(査証を受ける当事者が工場等への立入りを拒む場合等の効果)

第105条の2の5

査証を受ける当事者が前条第二項の規定による査証人の工場等への立入りの要求若しくは質問若しくは 書類等の提示の要求又は装置の作動、計測、実験その他査証のために必要な措置として裁判所の許可を受けた措置の要求に対し、正当な理由なくこれらに応じないときは、 裁判所は、立証されるべき事実に関する申立人の主張を真実と認めることができる。

 

 

申立人の立会いは、原則不可能とされているようです。

 

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