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2024年05月10日
権利能力なき社団とは、その1 民事法分野

権利能力なき社団とは、その1

民事法分野

 

 

権利能力なき社団とは、社団としての実質を備えていながら法令上の要件を満たさないために法人としての登記ができないか、これを行っていないために法人格を有しない社団。ドイツ法や日本法における概念。

 

典型的なものとしては、設立登記前の会社、入会集団(入会団体)などがある。

 

法人格がないため人格なき社団、人格のない社団ともいう[注 1]。なお、法人格のない団体には「任意団体」と呼ばれるものもあるが[1]、最高裁の判例で権利能力なき社団の要件が示されており(最判昭和39・10・15判決)、預金保険制度の預金者の区分などでは法人格がなく権利能力なき社団・財団の要件も満たさない団体を「任意団体」として区別している場合もある[2]。

 

権利能力なき社団は、財産処分に関する代表者設置の規定を持つかどうかによって、「代表者の定めのある権利能力なき社団」と「代表者の定めのない権利能力なき社団」に大別され、前者が狭義の「権利能力なき社団」、後者を含めたものが広義の「権利能力なき社団」である。

 

なお、社団と同様に財団についても法人格を有しないものを観念でき、これらは権利能力なき財団と呼ばれる(権利能力なき財団は権利能力なき社団とは異なり人的要素がないため外部関係について信託として扱うべきとする説が有力となっている)。

 

各法分野における取り扱い

民法における取り扱い

権利能力を有しないため、それ自体は権利および義務の主体となりえないにもかかわらず、社団としての実質を備えて活動しており、時として社団の名において権利を有し、または義務を負うがごとき外観を生じる。このような場合に権利・義務関係をいかに処理すべきかが問題とされる。

 

成立要件

民事訴訟法第29条において、権利能力なき社団で「代表者の定め」のあるものは訴訟の当事者となることができる旨が規定されていることから、権利能力なき社団は、「代表者の定め」が有るものと無いものに分類することができる。前者が狭義の「権利能力なき社団」、後者を含めたものが広義の「権利能力なき社団」であって、成立要件が異なる。代表者の定めが無い場合(広義の「権利能力なき社団」)について、判例は「権利能力なき社団の財産は、実質的には社団を構成する総社員の所謂総有に属するものであるから、総社員の同意をもつて、総有の廃止その他右財産の処分に関する定めのなされない限り、現社員及び元社員は、当然には、右財産に関し、共有の持分権又は分割請求権を有するものではないと解するのが相当である。」(最判 昭和32年11月14日民集 第11巻12号1943頁)としているから、所有財産が総有となる形態を取ることが、最低限の成立要件である。さらに、訴訟の当事者となり得る狭義の「権利能力なき社団」となるためには、「団体としての組織をそなえ、そこには多数決の原則が行なわれ、構成員の変更にもかかわらず団体そのものが存続し、しかしてその組織によつて代表の方法、総会の運営、財産の管理その他団体としての主要な点が確定しているものでなければならない」(最判 昭和39年10月15日民集18巻8号1671頁)としている。

 

沖縄のある血縁団体(門中)は、構成員を明確に特定でき、少なくとも明治時代にさかのぼれる慣行により代表・事務員の選出方法が確定しており、重要事項は同門中の長老の集まりによって決定され、祖先により寄付された財産を有して収益を祭祀等の行事や相互扶助事業に充てるなどの実態を有していたことから、代表者の定めのある権利能力なき社団と認定されている(最高裁判例 昭和55年2月8日民集34巻2号138頁)。

 

財産の帰属

権利能力なき社団それ自体は権利能力を有しておらず、権利・義務の主体にはならない。したがって、実質的に権利能力なき社団が権利・義務となっている外観がある場合は、権利・義務の帰属は社団の構成員に解消されなくてはならない。この場合の法的性質をどのように理解するかが学説上争われている。

 

この点に関して、判例はこれを総有であると理解している。総有とは、財産の共同所有形態の一種であり、団体の構成員は財産の使用収益権を持つが、団体的拘束が強いために、個々の構成員の持分権の大きさを観念することが困難であり、個々の構成員が共有財産の分割請求や自己の持分の処分をすることができないものという(最判 昭和32年11月14日民集11巻12号1943頁)。共有持分権の大きさを観念できないため、業務執行方法の決定には、結果的に構成員全員の合意が必要となる。実際には、全員の合意によって定款が設けられ、定款に基づいて業務執行がなされるため、個々の事項について構成員全員の意向が確認されることは、ほとんどない。

 

構成員の責任

権利能力なき社団の構成員が社団の債務につき弁済の責任を負うかが論じられる。判例は、構成員の責任を有限責任と理解し、構成員が社団に出資した限度でのみ責任を負うとする(最判 昭和48年10月9日民集27巻9号1129頁参照)。学説によっては、社団の性質を考慮せず一律に有限責任であるとするのは不当だと批判し、報償責任の原則から、営利目的の社団については無限責任、非営利目的の社団については有限責任とすべきだと主張しているものもある。もっとも、一律に有限責任であるとしても、契約において債権者と構成員の合意により無限責任とする連帯保証特約を設けることは妨げられないから、契約における標準の意思表示がどちらになるかという問題にすぎない。判例に従うならば、権利能力なき社団であることを明示したうえで、連帯保証特約等を設けない標準の意思表示で契約したときは、有限責任となる。不法行為による債務の場合は、各構成員の過失に応じて無限責任を負うことがある。

 

出資の払い戻し

共有持分の観念がないため、共有持分の払い戻しはできない。 ただし、構成員全員の合意により、共有持分を確定させたうえで解散することはできる。 なお、出資を行う際に提示された条件が履行されない場合の出資金返還請求は、権利能力なき社団を被告として、(代表者の定めがない場合は、構成員全員を被告として、)債務不履行による損害賠償請求の方法により可能である。

 

団体名義の登記

権利能力なき社団名義の登記を認めるべきかが裁判上争われたことがある。判例は、この点に関し、権利能力なき社団の有する権利は構成員に総有的に帰属するのであるから、社団自体は登記請求権を有しないと結論付けた(最判 昭和47年6月2日民集26巻5号957頁、#不動産登記の項において「基本判例」という)。

 

仮理事の選任について

代表者の定めのある権利能力なき社団については、代表者が欠け遅滞のため損害を生ずるおそれのある場合には、裁判所は民法56条を類推して仮理事を選任することができるとした判例がある(最高裁判例 昭和55年2月8日民集34巻2号138頁)。同判例によれば、裁判所は代表者となる資格のない者であっても仮理事に選任することができる。

 

公益法人制度改革の結果、民法第56条は廃止されているが、相当する規定が一般社団法人及び一般財団法人に関する法律第79条第2項等に存在する。

 

民事訴訟法における取り扱い

「法人でない社団又は財団で代表者又は管理人の定めがあるもの」は、その名において訴え、また、訴えられることができるとされる(民事訴訟法29条)。 ここでいう「代表者又は管理人」とは、肩書きのことではなく、財産の処分について、全構成員から委任を受けている者のことをいう。代表者の設置に関する規定が定款にない場合や多くの入会団体のように、共有持分を観念せずに共同の事業を営んでいる場合で代表者または管理人が存在しない場合(いわゆる「代表者の定めの無い権利能力なき社団」)は、「共有物の変更に関する規定」の準用により固有必要的共同訴訟となる。

 

代表者の定めのある権利能力なき社団で代表者が欠員となっている場合は、仮理事を選任することにより訴訟の当事者となることができる(最高裁判例 昭和55年2月8日民集34巻2号138頁)。

 

 

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