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2024年04月10日
会社法の令和元年改正3-1 第3部 取締役等に関する規律の見直し  第1章 取締役の報酬等にかかる規律の見直し

第3部 取締役等に関する規律の見直し
 取締役等に関する規律の見直しとして、①取締役の報酬等にかかる規律の見直し、②会社補償やD&O保険に関する規定の新設、③社外取締役に関する規定の整備等が行われました。

第1章 取締役の報酬等にかかる規律の見直し
1,改正
近時、上場会社を中心にリストリクテッドストックなどの株式インセンティブが普及している一方、業績に連動した報酬の付与に対する会社法の規律にはやや曖昧な部分がありました。規律を透明化して株式報酬等を適正、円滑に付与することを企図して、取締役の報酬について以下のような改正がされています。
今回、取締役の報酬に関する規律について、主に以下の4つの内容の改正が行われました
①上場会社等における取締役の報酬等の決定方針の義務付け(改正法361条7項)
②取締役の報酬として株式や新株予約権を付与する場合の株主総会決議事項の具体化(改正法361条1項)
③上場会社が取締役の報酬として株式を発行する場合に出資の履行を不要に
④事業報告における報酬等の決定方針や個人別報酬等の決定の代表取締役に対する委任などの事項の開示における取締役の個人別の報酬が株主総会で決定されない際の、取締役会による報酬の決定方針の策定の義務化

2,取締役の報酬決定方針の開示
上場会社等の一定の会社は、定款又は株主総会の決議で取締役の個人別報酬を具体的に定めている場合を除いて、報酬内容についての決定に関する方針(報酬決定方針)を取締役会で定め、開示することが必要となります(改正法第361条第7項。方針の具体的内容について改正施行規則第98条の5、開示方法が事業報告への記載となることについて同第121条第6号)。この制度の適用対象は、①有価証券報告書提出会社(公開会社である大会社に限る)、②監査等委員会設置会社、のみとなりますので、上場会社及び一定範囲の上場準備中企業にのみ関係する改正となります。
改正法361条7項において、一定の要件を満たした会社の取締役会における個人別報酬の決定方針の策定が義務化されました(①)。
 会社法では、指名委員会等設置会社では報酬等の決定方針を決定しなければならないとされていました(会社法409条1項)。

 今回の改正により、下記の会社についても、定款または株主総会決議による会社法361条1項各号に定める取締役の報酬等の定めがある場合、報酬等の決定方針として、法務省令で定める事項を決定しなければならないとされました(改正法361条7項)。
ⅰ監査役会設置会社(公開会社かつ大会社に限る)であって金商法24条1項の規定により有価証券報告書を提出する必要のある会社(いわゆる上場会社)、 または監査当委員会設置会社における取締役会は、
ⅱ個人別の報酬等の内容が定款または株主総会において決定されている場合を除き、
ⅲ個人別の報酬等の内容の決定方針として法務省令で定める事項を決定しなければならない、
とされています。
 ただし、コーポレートガバナンス・コードにおいても情報開示が求められていた事項であり(原則 3-1)、対応済みの上場会社も多いと思われます。

改正法361条7項においては開示までが規定されているわけではありません。
なお、今回改正法361条4項において、従来の説明義務の対象とされていた不確定額報酬・非金銭報酬(旧法361条1項2号、3号)に加えて、1号の確定額報酬に ついても説明義務の対象となりました。
また、後述のように会社法の事業報告において決定方針が追加されることも検討されています。 報酬額の決定方針について、これらの中で説明されるようになることが予想されます。
3,報酬等の決定方針の決定
 報酬等の決定方針の詳細は、法務省令において規定されますが、取締役の個人別の報酬等についての報酬等の種類ごとの比率にかかる決定の方針、業績連動報酬等の有無およびその内容にかかる決定の方針、取締役の個人別の報酬等の内容にかかる決定の方法(代表取締役に決定を再一任するかどうか等を含む)等が含まれます。報酬制度の設計を検討している会社においては、これらの開示が求められる項目に留意しておく必要があります。

4,株主総会の報酬決議
取締役の報酬は、その上限額等を株主総会で決議する必要があります。新株予約権や株式のインセンティブを付与する場合にも、報酬の一形態として決議を得る必要があり、会社法(旧法第361条第3号)の定めに従って「報酬等のうち金銭でないもの」として、「その具体的な内容」を決議することになりますが、具体的なインセンティブスキームに応じて、どのように内容を特定して決議するかは解釈の余地がありました。

今回の改正で、報酬として株式又は新株予約権を付与する場合には、その上限等を決議すべきものとされました(改正法第361条第1項第3号、第4号)。また、実務上利用されている金銭報酬を介した現物出資又は相殺方式による株式又は新株予約権についても同様の規律を及ぼすべく、株式又は新株予約権の払込にあてるための金銭報酬を付与する場合にも、同様に付与上限数等を決議すべきものとされています(同第5号)。具体的な決議項目は、改正施行規則(第98条の2~第98条の4)に規定されます。

また、旧法では、会社法361条1項2号または3号の報酬(不確定額報酬または非金銭報酬)に関する議案の内容を定め、または改定する議案を提出する場合、取締役はその報酬議案の事項を「相当とする理由」の説明が求められます(会社法361条2項)。
 今回の改正により、会社法361条1項1号の確定額報酬に関しても、当該事項を「相当とする理由」の説明が求められることになりました(改正法361条4項)。

改正法361条1項は、取締役の報酬等について、各号に掲げる事項が定款で定まっていない際には株主総会でこれを定める、としているものです。 旧法では1号から3号までしか決議事項がありませんでしたが、今回の改正により、細かく報酬区分ごとに決議事項が定められ、報酬の区分に応じて1号から6号までの 事項を決議しなければならないものとなりました。

具体的には、取締役の報酬として当該株式会社の株式・新株予約権を付与する際には、株式・新株予約権の数の上限その他法務省令で定める事項について 定款・株主総会決議で定めなければならないとしています(改正法361条1項3号、4号)。
また、払い込みの上、株式・新株予約権を付与されることを報酬とする場合にも、払い込みと引き換えに受ける株式・新株予約権の数の上限について 定款・株主総会決議で定めなければならないとしています(改正法361条1項5号イ・ロ)。
つまり、 取締役の報酬として株式・新株予約権を付与するような場合には、付与する株式・新株予約権の数の上限を定めなければならないということになります。

 立法過程では、取締役の報酬に関して、従来のお手盛り防止の見地に加えて、取締役への適切なインセンティブの付与となっているかを株主が適切に判断できるよう、株主総会における説明義務の対象として前記(1)に述べた「報酬等の決定方針」を含めるか否かが議論されました。最終的には、「報酬等の決定方針」自体は説明義務の対象とはされませんでしたが、報酬等に関する議案を株主総会に提出する場合、その後に決定される「報酬等の決定方針」を踏まえてその内容を決定すると考えられることから、上記の「相当とする理由」の説明において、決定しようとする「報酬等の決定方針」の概要の説明が求められることになります。


5,報酬としての株式、新株予約権の特則
取締役に報酬として株式を発行する場合、無償での新株発行はできないこと等から、時価で株式を発行しつつその払込金相当額を現金報酬として付与する方法などがとられ、新株予約権については行使価額をゼロにできないことからこれを1円とする1円オプションなどの技巧的なスキームが用いられてきました。今回、株式発行手続に関する会社法の規定を一部改正し、上場会社の取締役に対して報酬の目的で発行する株式については端的に払込金額をなし(0円)とし(改正法第202条の2)、新株予約権については行使時に払込を要しない(行使価額0円)ものとすること(改正法第236条第3項)ができるようになります。これによって、上記のような技巧的な方法を利用せずとも、ダイレクトに株式や新株予約権という有価証券を報酬として取締役に発行できる形になります。

この制度は、上場会社のみに適用されます。市場価格のある上場会社の場合、取締役に付与された株式等の価値が算定可能であり一定のガバナンスが期待できますが、非上場会社の場合は経営者の支配助長のため濫用されるおそれがあるとの懸念から、このようになっています。また、取締役のみが対象であり、監査役や従業員などは対象外となります。

上場会社が、取締役に対して株式・新株予約権を報酬として付与する際に払い込みを要しないこととしました(③)。
旧法下においては、報酬として株式・新株予約権を付与するような場合には金銭の払い込みや財産上の給付等が必要とされており、 その結果として取締役の報酬債権との相殺の方法などにより、株式・新株予約権の付与が行われていました。

今回は改正では、このような迂遠な方法を必要としないように報酬として株式・新株予約権を付与する際には払い込みを要しないものとしました。 株式・新株予約権の付与において払い込みを要しないものとできるのは、 金商法2条16項に規定する上場株式を発行する会社、つまり上場会社です。

上場会社は、定款または株主総会決議において株式を報酬として付与することを定め、これに従い株式の募集をする際には、199条2項1項2号及び4号の事項( 払込金額等及び払込期日)を定める必要がなく、また、改正法202条の2第1項各号の事項を定めなければならないとしています。
改正法202条の2第1項各号の事項とは、報酬として株式の発行をするものであり、募集株式の発行と引き換えにする金銭の払い込み等を要しない旨(1号)、 募集株式を割り当てる日(2号)です。

つまり、上場会社で報酬として株式を発行する際には、払込金額及び払込期日を定める必要はなく、 代わりに金銭の払い込み等を要しない旨および募集株式を割り当てる日を決定する必要がある、ということになります。 新株予約権も同様の規律となっています(改正法236条3項各号)。

6,事業報告の記載充実
上記改正を踏まえ、公開会社の事業報告について、(1)で述べた報酬決定方針のほか、業績連動報酬に関する事項や、報酬として交付した株式等に関する事項などが、事業報告の記載事項として追加されます(改正施行規則第121条、第122条)。「公開会社」(株式の譲渡制限を外している会社)に関する変更ですので、主に上場会社に関する改正となります。

事業報告の充実化(④)が報酬に関する改正としてあげられます。
事業報告は会社法435条2項に規定されており、その具体的内容は会社法施行規則118条以下に規定されています。

以上の4点が、報酬に関する改正内容となります。

7,企業に求められる具体的な対応とそのスケジュール
 この規律は特に経過措置が設けられていないため、義務づけの対象となる会社においては、改正法の施行日(2021年3月1日)時点で報酬等の決定方針が定められていることが原則として必要ですが、施行日以後すみやかに決定することでも許容されると解されています 1。

 つまり、義務付けの対象となる会社においては、2021年3月1日までに開催される取締役会で、報酬等の決定方針を定めておくことが望ましいといえます。それが難しい場合には、2021年3月1日以降なるべく早いタイミングで定める必要があります。「施行日以後すみやかに」というのが具体的にいつまでなのかは不明確ですが、遅くとも3月の定例取締役会では決議しておく必要があると考えられます。

8,過去(改正法の施行日より前の時点)の取締役会決議の内容が、報酬等の決定方針として取締役会が決定すべき事項を網羅している場合であっても、改めて決議する必要はありません。

9,既に制定されている役員報酬規程の内容が、報酬等の決定方針として取締役会が決定すべき事項を網羅している場合であって、役員報酬規程の制定や改定が取締役会決議に基づいてされているのであれば、報酬等の決定方針として取締役会が決定すべき事項についても取締役会決議によって決定されていると評価することができるため、改めて決議する必要はありません。

10,報酬等の決定方針として定めるべき事項
改正会社法施行規則98条の5の概要
 報酬等の決定方針として定めるべき事項の具体的内容は、会社法施行規則98条の5各号に規定されており、その概要は以下のとおりです。
1号 報酬の種類ごとに
定める事項 報酬等(業績に連動しない金銭報酬)の額またはその算定方法の決定方針
2号 業績連動報酬等がある場合には、業績指標の内容および業績連動報酬等の額または数の算定方法の決定方針
3号 非金銭報酬等がある場合には、その内容および非金銭報酬等の額もしくは数またはその算定方法の決定方針
4号 報酬全体について
定める事項 報酬等の種類ごとの割合の決定方針
5号 報酬等を与える時期または条件の決定方針
6号 個人別報酬の内容の決定方法 決定の全部または一部の第三者への委任に関する事項
イ)委任を受ける者の氏名または株式会社における地位・担当
ロ)委任する権限の内容
ハ)権限が適切に行使されるようにするための措置を講ずることとするときは、その内容
7号 第三者への委任以外の決定方法
8号 その他 その他重要な事項
改正会社法施行規則98条の5各号で定めるべき事項の具体的な記載方法
 以下、会社法施行規則98条の5各号の内容について条文の順序に沿って解説しますが、報酬等の決定方針としては、その実質的な内容において同条各号に掲げる事項が決定されていれば足り、記載順序や様式について特に限定はありません。

11,報酬等(業績に連動しない金銭報酬)の額またはその算定方法の決定方針(会社法施行規則98条の5第1号)
 業績に連動しない金銭報酬については、その額またはその算定方法の決定方針を定める必要がありますが、額や算定方法の詳細までを決定する必要はなく、算定方法を決定する際の考え方を定めれば足りると考えられます。
【具体的な記載例】
取締役の役位、職責、在任年数等に応じて支給額を決定する。

12,業績連動報酬等がある場合には、業績指標の内容および業績連動報酬等の額または数の算定方法の決定方針(会社法施行規則98条の5第2号)
 取締役に対して業績指標(※)を基礎としてその額または数が算定される報酬を支給している場合には、ここでいう「業績連動報酬等」に該当します。業績に連動する金銭報酬だけでなく、業績に応じて付与数が変動する株式報酬などの非金銭報酬等も「業績連動報酬等」に該当する点には留意が必要です。

 業績連動報酬等に該当する場合には、業績指標の内容および業績連動報酬等の額または数の算定方法の決定方針を定める必要がありますが、額・数や算定方法の詳細までを決定することが求められているわけではなく、算定方法を決定する際の考え方を定めれば足りると考えられます。

(※)「業績指標」には、以下のようなものが広く含まれます。
売上高、営業利益、経常利益、当期純利益等
株価
自己資本利益率(ROE)、総資産利益率(ROA)等
配当性向
非財務指標(顧客満足度、CO2排出量削減目標の計画値に対する達成度等)
連結売上高、連結営業利益、連結経常利益等
【具体的な記載例】
各事業年度の連結売上高が……円以上であれば〇円~〇円の範囲内、……円以上であれば〇円~〇円の範囲内の額とする。
役位に応じて設定される基準額に、各事業年度の連結売上高営業利益率に応じて〇~〇の範囲内で設定される指標係数を乗じた額とする。
各事業年度の連結売上高の目標値に対する達成率に応じて算出された額を支給する。
役位に応じて設定される基準額に、各事業年度の連結売上高営業利益率に比例して設定される指標係数を乗じた額を支給する。

13,非金銭報酬等がある場合には、その内容および非金銭報酬等の額もしくは数またはその算定方法の決定方針(会社法施行規則98条の5第3号)
 取締役に対して株式や新株予約権を報酬として付与する場合のほか、株式や新株予約権と引換えにする払込みに充てるための金銭を取締役の報酬とする場合(いわゆる現物出資構成による株式報酬や相殺構成によるストックオプション)も、「非金銭報酬等」に該当します。

 非金銭報酬等に該当する場合には、その内容および非金銭報酬等の額もしくは数またはその算定方法の決定方針を定める必要があります。
【具体的な記載例】
当社の中長期的な企業価値及び株主価値の持続的な向上を図るインセンティブを付与するため、非金銭報酬として譲渡制限付株式(譲渡制限期間は〇年間とし、…を条件として譲渡制限を解除する。)を付与するものとし、付与数は役位に応じて決定するものとする。

14,報酬等の種類ごとの割合の決定方針(会社法施行規則98条の5第4号)
 業績に連動しない金銭報酬、業績連動報酬等および非金銭報酬等の報酬全体に占める割合の決定方針について定める必要があります。ここで決定しなければならないのは、割合自体ではなくあくまで割合の決定方針なので、具体的な割合を定めることは必須ではありません。たとえば、レンジを用いて示すことや、役位が上がるほど業績連動報酬等や非金銭報酬の割合が大きくなるように設定するなどの考え方を定めることでも足りると考えられます。

 なお、有価証券報告書では、業績連動報酬とそれ以外の報酬等の支給割合の決定方針を記載することは求められていますが(開示府令第二号様式記載上の注意(第三号様式記載上の注意(38)において準用)(57)a)、報酬の種類ごとの割合の決定方針まで記載することが明示的に求められているわけではないので、報酬等の決定方針を策定する際に有価証券報告書の記載内容を流用しようとする場合には注意が必要です。

【具体的な記載例】
固定の金銭報酬である基本報酬:業績連動報酬等である賞与:非金銭報酬等であるストックオプションの割合がおよそ5:3:2となるように支給するものとする。
業績連動報酬等が報酬全体に占める割合は、約〇%~〇%の範囲内で役位が上がるほどその割合が大きくなるように設定するものとし、固定金銭報酬と非金銭報酬等はおよそ〇:〇の割合で支給するものとする。
業績連動報酬等は支給せず、固定報酬のうち〇%前後を一律で非金銭報酬等である譲渡制限株式と引換えにする払込みに充てるための金銭として支給するものとする。

15,報酬等を与える時期または条件の決定方針(会社法施行規則98条の5第5号)
 それぞれの報酬について、取締役に対して報酬等を与える時期や条件の決定方針を定める必要があります。それぞれの報酬の内容や額の算定方法の決定方針についての説明の中で、まとめて記載することとしても問題ありません。

 なお、有価証券報告書では、報酬等を与える時期または条件の決定方針に相当する内容を記載することは明示的には求められておりませんので、報酬等の決定方針を策定する際に有価証券報告書の記載内容を流用しようとする場合には注意が必要です。

【具体的な記載例】
基本報酬は、月例の固定金銭報酬とする。
業績連動報酬等である賞与は、事業年度終了後〇ヶ月以内に年1回支給する。
株式交付信託を採用しており、対象となる取締役に対して、取締役会で定めた株式交付規程に従って役位に応じたポイントを付与し、付与を受けたポイントの数に応じて、当社および当社グループの役員を退任した時に当社株式を交付する。

16,決定の全部または一部の第三者への委任に関する事項(会社法施行規則98条の5第6号)
 取締役の個人別の報酬等の内容についての決定の全部または一部を取締役その他の第三者に委任(いわゆる再一任)することとする場合には、以下の事項を定める必要があります(会社法施行規則98条の5第6号イ〜ハ)。

➀委任を受ける者の氏名または株式会社における地位・担当
②委任する権限の内容
③権限が適切に行使されるようにするための措置を講ずることとするときは、その内容
 なお、①の「委任を受ける者」は、たとえば、社外取締役で構成される任意の報酬委員会を設置して同委員会に決定の全部または一部を委任した場合には、報酬委員会ではなく、その構成員である取締役を指すと考えられています。

 また、③の措置としては、委任を受けた取締役等が社外取締役を中心とした任意の報酬諮問委員会の答申や外部の専門家の意見等を得たうえで取締役の個人別の報酬等の内容を決定することなどが考えられますが、このような措置を講ずるかどうかは各社の判断に委ねられています。

【具体的な記載例】
各取締役に支給する業績連動報酬等である賞与については、取締役会決議に基づき代表取締役社長にその具体的内容の決定を委任するものとし、代表取締役社長は、当社の業績等も踏まえ、株主総会で決議した報酬等の総額の範囲内において、各取締役の役位、職責等に応じて決定する。なお、代表取締役社長は、当該決定にあたっては、委員の過半数が社外取締役で構成される報酬諮問委員会からの答申内容を尊重するものとする。

17,第三者への委任以外の決定方法(会社法施行規則98条の5第7号)
 会社法施行規則98条の5第7号では、いわゆる再一任以外の決定方法について定めることとされています。たとえば、取締役の個人別の報酬等の内容について取締役会が決定するに際して、任意の報酬諮問委員会の答申を得たり、外部の専門家の意見を得たりしている場合には、これに該当します。

【具体的な記載例】
各取締役の基本報酬については、取締役会が、委員の過半数が独立社外取締役で構成される報酬諮問委員会における審議結果を踏まえ、その具体的内容を決定する。

18,その他重要な事項(会社法施行規則98条の5第8号)
 以上のほか、取締役の個人別の報酬等の内容を決定するにあたって、各社において重要と考える事項があれば、報酬等の決定方針の一内容として定めておくことが考えられます。たとえば、取締役の個人別の報酬等の内容を決定する際の前提となる基本的な理念や、一定の事由が生じた場合に報酬等を返還させるような建付けとする場合における当該事由の決定方針などがこれに該当すると考えられます。

19,報酬には、取締役に対して職務を適切に執行するインセンティブを付与するという重要な機能があるため、取締役の報酬等の内容を適切に定めるための仕組みを整備することは、ガバナンスの強化の観点から重要であると指摘されてきました。

 今回、改正法が上場会社等に報酬等の決定方針の決定を義務づけることとしたのも、企業による「仕組みの整備」の一環として、報酬決定プロセスの透明性を向上させることが目的といえます。

 ガバナンスの強化という至上命題を達成するためにも、各企業が、今回の改正を自社の報酬制度全体を見つめ直す好機と捉え、自社に適した仕組みの整備を目指すことが期待されます。

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