交通事故・相続・債権回収でお困りの方はお気軽にご相談下さい

法律相談のご予約・お問い合わせはこちらまで03−6904−7423
新着情報
2024年05月09日
有毒性物質である硼砂を混入して製造したアラレ菓子の販売契約が民法九〇条により無効とされた事例

有毒性物質である硼砂を混入して製造したアラレ菓子の販売契約が民法九〇条により無効とされた事例

 

 

為替手形金請求事件

【事件番号】      最高裁判所第1小法廷判決/昭和36年(オ)第30号

【判決日付】      昭和39年1月23日

【判示事項】      有毒性物質である硼砂を混入して製造したアラレ菓子の販売契約が民法九〇条により無効とされた事例

【判決要旨】      アラレ菓子の製造販売業者が硼砂の有毒性物質であることを知り、これを混入して製造したアラレ菓子の販売を食品衛生法が禁止していることを知りながら、あえてこれを製造のうえ、その販売業者に継続的に売り渡す契約は、民法九〇条により無効である。

【参照条文】      民法90

             食品衛生法4

             食品衛生法30

【掲載誌】        最高裁判所民事判例集18巻1号37頁

 

 

民法

(公序良俗)

第九十条 公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする。

 

 

食品衛生法

第四条 この法律で食品とは、全ての飲食物をいう。ただし、医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(昭和三十五年法律第百四十五号)に規定する医薬品、医薬部外品及び再生医療等製品は、これを含まない。

② この法律で添加物とは、食品の製造の過程において又は食品の加工若しくは保存の目的で、食品に添加、混和、浸潤その他の方法によつて使用する物をいう。

③ この法律で天然香料とは、動植物から得られた物又はその混合物で、食品の着香の目的で使用される添加物をいう。

④ この法律で器具とは、飲食器、割ぽう具その他食品又は添加物の採取、製造、加工、調理、貯蔵、運搬、陳列、授受又は摂取の用に供され、かつ、食品又は添加物に直接接触する機械、器具その他の物をいう。ただし、農業及び水産業における食品の採取の用に供される機械、器具その他の物は、これを含まない。

⑤ この法律で容器包装とは、食品又は添加物を入れ、又は包んでいる物で、食品又は添加物を授受する場合そのままで引き渡すものをいう。

⑥ この法律で食品衛生とは、食品、添加物、器具及び容器包装を対象とする飲食に関する衛生をいう。

⑦ この法律で営業とは、業として、食品若しくは添加物を採取し、製造し、輸入し、加工し、調理し、貯蔵し、運搬し、若しくは販売すること又は器具若しくは容器包装を製造し、輸入し、若しくは販売することをいう。ただし、農業及び水産業における食品の採取業は、これを含まない。

⑧ この法律で営業者とは、営業を営む人又は法人をいう。

⑨ この法律で登録検査機関とは、第三十三条第一項の規定により厚生労働大臣の登録を受けた法人をいう。

 

第九条 厚生労働大臣は、特定の国若しくは地域において採取され、製造され、加工され、調理され、若しくは貯蔵され、又は特定の者により採取され、製造され、加工され、調理され、若しくは貯蔵される特定の食品又は添加物について、第二十六条第一項から第三項まで又は第二十八条第一項の規定による検査の結果次に掲げる食品又は添加物に該当するものが相当数発見されたこと、生産地における食品衛生上の管理の状況その他の厚生労働省令で定める事由からみて次に掲げる食品又は添加物に該当するものが相当程度含まれるおそれがあると認められる場合において、人の健康を損なうおそれの程度その他の厚生労働省令で定める事項を勘案して、当該特定の食品又は添加物に起因する食品衛生上の危害の発生を防止するため特に必要があると認めるときは、薬事・食品衛生審議会の意見を聴いて、当該特定の食品又は添加物を販売し、又は販売の用に供するために、採取し、製造し、輸入し、加工し、使用し、若しくは調理することを禁止することができる。

一 第六条各号に掲げる食品又は添加物

二 第十二条に規定する食品

三 第十三条第一項の規定により定められた規格に合わない食品又は添加物

四 第十三条第一項の規定により定められた基準に合わない方法により添加物を使用した食品

五 第十三条第三項に規定する食品

② 厚生労働大臣は、前項の規定による禁止をしようとするときは、あらかじめ、関係行政機関の長に協議しなければならない。

③ 厚生労働大臣は、第一項の規定による禁止をした場合において、当該禁止に関し利害関係を有する者の申請に基づき、又は必要に応じ、厚生労働省令で定めるところにより、当該禁止に係る特定の食品又は添加物に起因する食品衛生上の危害が発生するおそれがないと認めるときは、薬事・食品衛生審議会の意見を聴いて、当該禁止の全部又は一部を解除するものとする。

④ 厚生労働大臣は、第一項の規定による禁止をしたとき、又は前項の規定による禁止の全部若しくは一部の解除をしたときは、官報で告示するものとする。

 

第八十三条 次の各号のいずれかに該当する者は、これを一年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。

一 第十条第二項、第十一条、第十八条第二項(第六十八条第一項及び第三項において準用する場合を含む。)若しくは第三項、第二十五条第一項(第六十八条第一項及び第三項において準用する場合を含む。)、第二十六条第四項(第六十八条第一項において準用する場合を含む。)又は第六十三条第一項(第六十八条第一項において準用する場合を含む。)の規定に違反した者

二 第九条第一項(第六十八条第一項において準用する場合を含む。)又は第十七条第一項(第六十八条第一項及び第三項において準用する場合を含む。)の規定による禁止に違反した者

三 第四十条第一項の規定に違反して、その職務に関して知り得た秘密を漏らした者

四 第五十四条(第六十八条第一項及び第三項において準用する場合を含む。)の規定による基準又は第五十五条第三項(第六十八条第一項において準用する場合を含む。)の規定による条件に違反した者

五 第六十一条(第六十八条第一項及び第三項において準用する場合を含む。)の規定による都道府県知事(第七十六条の規定により読み替えられる場合は、市長又は区長)の命令に従わない営業者(同項に規定する食品を供与する者を含む。)又は第六十一条(第六十八条第一項及び第三項において準用する場合を含む。)の規定による処分に違反して営業を行つた者

 

 

 

       主   文

 

 原判決を破棄し、第一審判決を取消す。

 被上告人の請求を棄却する。

 訴訟の総費用は被上告人の負担とする。

 

       理   由

 

 上告代理人弁護士川本作一の上告理由について、

 当事者間に争がない事実及び証拠によつて認定できる事実として、原判決の引用する第一審判決の確定した事実は次のとおりである。すなわち、被上告人は判示(イ)(ロ)(ハ)(ニ)の各為替手形各一通額面金額計四三万五五二一円を振出し、上告人は右各手形につき引受をなしたものであるが、右各手形は被上告人から上告人に対し昭和三二年一〇月頃から同三三年二月までの間に売渡したアラレ菓子の右同額の代金の支払のため上告人において引受けたものであること、そして右アラレ菓子には食品衛生法に禁止されている硼砂が混入していたこと、元来被上告人は昭和三一年四月頃から澱粉アラレの製造販売を営み、同三二年一月頃から上告人との間に取引を開始したものであるところ、これに硼砂を使用することの有害なることを当初は知らなかつたが、同年一〇月末頃新聞紙上で硼砂を使用したアラレの製造が食品衛生法により禁止されていることを知りこれを使用しないでアラレを製造する方法の研究を始めるとともに、上告人に対し当分アラレの売却を中止したい旨連絡したところ、上告人は「今はアラレの売れる時期だからどんどん送つて貰いたい、自分も保健所に出入りしているが、こちらの保健所ではそんなことは何も云つておらぬ、君には迷惑をかけぬからどんどん送つてほしい」旨申向け送品の継続を強く要請し、その結果本件の取引が行われたというのである。

 思うに、有毒性物質である硼砂の混入したアラレを販売すれば、食品衛生法四条二号に抵触し、処罰を免れないことは多弁を要しないところであるが、その理由だけで、右アラレの販売は民法九〇条に反し無効のものとなるものではない。しかしながら、前示のように、アラレの製造販売を業とする者が硼砂の有毒性物質であり、これを混入したアラレを販売することが食品衛生法の禁止しているものであることを知りながら、敢えてこれを製造の上、同じ販売業者である者の要請に応じて売り渡し、その取引を継続したという場合には、一般大衆の購買のルートに乗せたものと認められ、その結果公衆衛生を害するに至るであろうことはみやすき道理であるから、そのような取引は民法九〇条に抵触し無効のものと解するを相当とする。然らば、すなわち、上告人は前示アラレの売買取引に基づく代金支払の義務なき筋合なれば、その代金支払の為めに引受けた前示各為替手形金もこれを支払うの要なく、従つて、これが支払を命じた第一審判決及びこれを是認した原判決は失当と云わざるを得ず、論旨は理由あるに帰する。

 よつて、民訴四〇八条一号、三九六条、三八六条、九六条、八九条に従い、裁判官全員の一致で主文のとおり判決する。

    最高裁判所第一小法廷

top

法律相談のご予約・お問い合わせはこちらまで03−6904−7423