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2024年04月21日
会社法の令和元年改正5第5部 株式交付制度の創設

第5部 株式交付制度の創設

ここでは、株式交付制度という今回の改正により追加された制度について解説します。

1,制度趣旨

 株式会社が他の株式会社を子会社とする場合に、自社の株式を他の株式会社の株主に交付することができる株式交付制度が新たに設けられました(改正法2条32号の2、774条の2〜774条の11、816条の2〜816条の10)。これは、旧法上の株式交換の制度は完全子会社化を行う場合にしか利用できず、また、新株発行と株式の現物出資と新株発行の構成を取る場合は手続が複雑でコストがかかるとの指摘がされていたことを背景としたものです。

 

株式交付制度は、ベンチャー企業にも活用が期待できる、今回の改正の目玉のひとつです。一言でいえば、M&Aの手法として「相対の株式交換」とも言える制度が新設されました。

 

旧法上、自社株を対価に用いた買収の手法として、株式交換がありますが、この制度は完全子会社化(100%買収)にしか利用できません。過半数のみの買収を希望している場合で、自社株を対価にしようとすると、売却を希望する被買収会社の株主が当該会社の株式を買収会社に現物出資し、それに対して買収会社が自社株を割当発行するという手順をとる必要があり、原則として検査役の検査が必要となるなど、実務上利用が困難とされてきました。この問題を解決するため、企業再編手法の新たな手法として、株式交付制度の手続が新設されました。

今回設けられた株式交付制度は、完全子会社化を予定していない場合であっても、株式会社が他の株式会社を子会社とするために、自社株式を交付することを認める制度です。

 

2,改正

株式交付制度は、 株式会社(買収会社)が、他の株式会社(被買収会社)を子会社とするために、自社株式を他の株式会社(被買収会社)の株主に対して交付することを 可能にする制度です。

 

買収会社と、被買収会社の株主との間で、買収会社が自社株式等を被買収会社の株主に付与し、一方で被買収会社の株主が自身の有する被買収会社株式を、買収会社に付与するような取引です。株式交付については、改正法2条32号の2に定義規定が存在します。

 

株式交付制度は、改正法774条の2から774条の11、811条の2から816条の10において規定がなされています。

 

株式交付制度には、「株式交付親会社」と「株式交付子会社」という会社類型が新設されています。 「株式交付親会社」とは、株式交付をする会社をいいます(改正法714条の3第1項かっこ書)。つまり、 自社の株式等を対価として、対象会社を子会社化しようとする会社です。

「株式交付子会社」とは、「株式交付親会社が株式交付に際して譲り受ける株式を発行する会社のことをいい(改正法714条の3第1項かっこ書)、 被買収会社のことです。

 

3,利用範囲

株式交付制度は、他の株式会社を子会社としようとする場合のみ利用できます。そのため、過半数に達しない範囲で持株比率を増やす場合や、既に子会社となっている会社の持株比率を増やす場合には利用できません(改正法第2条第32号の2)。また、ここにいう「子会社」は、会社法上の子会社のうち、施行規則第3条第3項第1号に該当する子会社(議決権過半数保有の場合)のみとされます(改正施行規則第4条の2)。

 

また、「株式会社」を子会社にする場合に限定されており、持分会社や外国会社の子会社化には利用できません。さらに、清算中の会社については、親会社側になる場合、子会社側になる場合とも、株式交付制度は利用できません(改正法第509条第1項第3号)。

 

4,制度枠組

株式交付制度は、買収会社が他の会社(被買収会社)を子会社化するために、被買収会社の株主からその株式の譲渡(強制ではなく譲渡意思に基づく譲渡)を受け、その対価として買収会社の株式を交付するものです。この手続を、旧法の現物出資の枠組みではなく、買収会社において「株式交付計画」を作成、機関決定して実施する企業再編手続の一形態として整理するものとなります。

 

譲渡を受けるのは、被買収会社の株式となりますが、それに加えて、被買収会社の新株予約権を譲渡の対象にすることができます(改正法第774条の3第1項第7号)。過半数の株式を取得しても、その後残存する新株予約権を行使されて親子会社関係が崩れてしまう不都合を避ける必要があるためです。なお、株式を譲り受けずに新株予約権だけ譲り受けることは認められません。

 

また、交付する対価は買収会社の株式となりますが、それに加えて金銭その他の財産を交付することも可能です(買収会社の株式を全く交付しないことはできません。改正法第774条の3第1項第3号柱書、第774条の11第5項第4号)。

 

5,手続概要

株式交付を行う場合、買収会社は、対象とする被買収会社、譲り受ける被買収会社の株式の数の下限、譲渡の申込期日、効力発生日等を定めた株式交付計画を作成する必要があります(改正法第774条の3)。譲り受ける株式数の下限は、子会社化するのに必要な数とする必要があります。

 

株式交付計画は、原則として、株主総会の特別決議による承認を得る必要がありますが、他の企業再編手続に準じた簡易手続が設けられています(改正法第816条の4第1項本文)。事前開示、反対株主の買取請求権、債権者異議手続、事後開示等の手続が規定されていることも、企業再編手続と同様です(改正法第816条の2~第816条の10)。

 

株式交付計画決定後は、譲渡申込み予定者に対する通知、譲受をする株式の割当決定、譲渡人となった者による被買収会社株式の交付(効力発生日。このときに譲渡人は買収会社の株式等の対価を取得する)といった手順がとられます。細かい部分は異なりますが、第三者割当の新株発行手続に類似した手順になっています(改正法第774条の4~第774の7)。また、上述のとおり被買収会社の新株予約権も譲受対象にできますが、その譲受手続も同様となります(改正法第774条の9)。

 

他の企業再編手続と同様、無効の訴えの制度が設けられ、株式交付の無効は、効力発生日から6ヶ月以内の訴えをもってのみ主張できるものとされます(改正法第828条第1項第13号)。

 

6,株式交付の流れ

 

株式交付親会社は、株式交付計画を作成

株式交付計画について備え置きおよび閲覧等の措置

株主総会特別決議による承認を得る

株式交付親会社は、株式交付に申し込みをしようとする者に対して、株式交付親会社の商号や株式交付計画の内容等について通知

株式交付に申し込む株式交付子会社の株主が書面で申込み

株式交付親会社は、申込者の中から、株式を譲り受ける者・その者に割り当てる株式交付親会社の株式の数を定める

株式交付親会社は、効力発生日の前日までに、申込者から譲り受ける株式の数を申込者に通知する

通知を受けた申込者は、株式交付子会社の株式の譲渡人となる

株式交付子会社の株式の譲渡人は、効力発生日において、株式交付親会社から通知を受けた数の株式交付子会社の株式を、株式交付親会社に対して給付する

株式交付子会社の株式の譲渡人は、効力発生日において株式交付計画の定めに従い、株式交付親会社の株主となる

 

まず、株式交付を行う場合、株式交付をする会社(株式交付親会社)が、株式交付計画を作成する必要があります(改正法774条の2)。

株式交付計画においては、株式交付子会社の商号および住所(改正法774条の2第1号)、株式交付親会社が株式交付に際して譲り受ける株式交付子会社の株式の数の下限 (改正法774条の2第2号)、株式交付親会社が株式交付に際して株式交付子会社の譲渡人に対して当該株式の対価として交付する株式交付親会社の株式の数(改正法774条の2第3号) など、改正法774条の2各号の事項を定める必要があります。

 

株式交付においては、株式交付親会社の株式を付与することが必要的ですが、それに加えて金銭等を対価として加えることもできるものとされています。

金銭等が対価として付加された場合、後述する債権者異議手続の対象になることがあります。

また、株式交付の取得対象として、株式が含まれることは必要的ですが、そのほかに新株予約権や新株予約権付社債の取得も加えることができます。

 

なお、改正法774条の2第2号の、取得する株式交付子会社の株式の数の下限は、子会社とするのに必要な株式の数を下限、 すなわち議決権の50%以上を下限として行わなければなりません (改正法774条の3第2項)。

 

まとめると、取得の対価として株式交付親会社が交付できるものは株式交付親会社の株式(必要的)、金銭等(付加可)、であり、取得の対象は、 株式交付子会社の株式(必要的)、新株予約権(付加可)、新株予約権付社債(付加可)、ということになっています。取得は、株式交付子会社の50%を下回ることができません。

 

次に、株式交付計画について備え置きおよび閲覧等の措置を取ったうえで(改正法816条の2)、 株主総会特別決議による承認を得る必要があります (改正法816条の3第1項・309条2項12号)。なお、備え置きおよび閲覧等の措置については事後のものも存在します。

 

株式交付親会社は、株式交付に申し込みをしようとする者に対して、株式交付親会社の商号や株式交付計画の内容等について通知する必要があります(改正法774条の4第1項)。

株式交付に申し込む株式交付子会社の株主は、申込者の氏名等の情報及び譲渡しようとする株式交付子会社の株式の数の情報について、 書面で、株式交付計画で定められた期日までに交付する必要があります(改正法774条の4第2項)。

 

申し込みを受けた株式交付親会社は、申込者の中から、株式を譲り受ける者及びその者に割り当てる株式交付親会社の株式の数を定め(改正法774条の5第1項)、 効力発生日の前日までに、申込者から譲り受ける株式の数を申込者に通知する必要があります(改正法774条の5第2項)。

割り当てに際しては、募集株式の発行と同様に割り当て自由の原則が妥当することになります。

 

なお、株式交付計画において定められた取得下限に満たない場合、割り当て及び通知の規定の適用はなく、申込者に対して株式交付をしない旨を遅滞なく 通知しなければならないとされています(改正法774条の10)。

 

改正法774条の5第2項の通知が行われた申込者は、株式交付における株式交付子会社の株式の譲渡人となります(改正法774条の7第1項1号)。

譲渡人となった場合、効力発生日において、株式交付親会社から通知を受けた数の株式交付子会社の株式を、株式交付親会社に対して給付する必 要があります(改正法774条の7第2項)。

この給付をした株式交付子会社の株式の譲渡人は、効力発生日において株式交付計画の定めに従い、株式交付親会社の株主となります。

 

これらが株式交付の一連の流れです。

 

7,株式交付親会社の株主の差止請求・債権者の異議手続き

 

株式交付には、他の組織再編の制度と同様に、株主の差止請求権が認められています。

 

株式交付親会社の株主は、株式交付が法令・定款に違反するような場合であって株主が不利益を受けるおそれがあるような場合に、差し止めを請求することができます(改正法816条の5)。

また、反対株主の株式買取請求権も認められており、改正法816条の6の定めるところにより、反対株主は自己の有する株式交付親会社の株式を、公正な価格で買い取ることを請求することができます。

 

株式交付親会社の債権者には、債権者異議手続きが設けられています。

改正法816条の8第1項は、株式交付の対価として交付するものに金銭等が含まれている場合、株式交付に異議を述べることができると定めています。

 

今回の株式交付の制度では、株式交付子会社のとるべき措置等は設けられていません。

今後、株式交付子会社とされた取締役等の行動について、いかなる善管注意義務からいかなる行動が要請されるのか、今後の検討が望まれます。

 

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