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2024年04月11日
会社法の令和元年改正3-2 第2章 会社補償に関する規定の新設

第2章 会社補償に関する規定の新設

1,改正の背景

優秀な役員の人材を確保し、役員の職務執行の過度の萎縮を避けるため、会社が役員との契約によって、責任追及の訴えの対応費用等を補償することを約したり、会社が保険料を負担して役員賠償責任保険に加入することが実務上行われています。これらについては、会社と取締役の利益が相反する側面もあり、利益相反取引の規律を適用すべきでないか等、会社法上の位置づけがクリアでありませんでした 。

 

今回の改正で、従前の利益相反取引の規制とは別枠で、上記の会社補償や役員賠償責任保険について、利益相反取引に準じて取締役会(取締役会非設置会社では株主総会)の承認を要する等の規定が新設され、規律が明確化されます。

 

2,会社補償の規律整備

新たな規律の対象となる「補償契約」とは、会社が役員に以下の金額の全部又は一部を補償する契約となります(改正法第430条の2第1項)。

 

職務執行に関し、法令違反を疑われ、又は責任追及の請求を受けた場合における、その対応費用(弁護士費用など)

職務執行に関し、第三者に生じた損害を賠償する責任を負う場合において、役員が支払う賠償金及び和解金

後述のとおり、「補償契約」に該当する場合、「利益相反」の規制は適用されない建付となっていることから、「補償契約」の範囲は役員を過剰に利さない一定の類型のものに限られます。例えば、上記2.では、「会社に生じた損害」を賠償する責任を負う場合は含まれていません。これを含めてしまうと、補償契約のスキームを利用して役員の会社に対する賠償責任を事実上免除することが可能になってしまい、会社法の別の条文で責任免除に厳格な要件を置いている意味がなくなってしまうためです。

 

補償契約を締結する場合、その内容について取締役会(取締役会非設置会社では株主総会)で承認を得る必要があります。一方で、補償契約については会社法の利益相反の規律(会社法第356条第1項、第365条第2項)は適用されません(改正法第430条の2第6項)。もし利益相反が適用されてしまうと、それに関連して生じた会社の損害について、利益相反取引の当事者である役員が自己の無過失を主張できない(会社法第428条第1項)、責任の一部免除や責任限定契約の適用を受けられない(同条第2項)といった厳しい規律を受けることになってしまうため、適用除外を明確化したものです。

 

制度の濫用を防ぐため、補償契約を締結しても、以下の金額については役員に補償することはできないものとされます(改正法第430条の2第2項)。2.については、損害を受けた第三者に対しては役員と会社が連帯して賠償責任を負うが、100%役員の職務懈怠に起因する問題であるため役員と会社との内部関係では役員が100%会社に対して責任を負うようなケースで、役員が第三者に賠償金を支払った後で補償契約によりそれを会社が補填してしまうのは、制度趣旨を逸脱してしまうため禁止されていると考えられます。

 

通常要する費用の額を超える対応費用(不当に高額な弁護士費用など)

会社が第三者に損害賠償した場合に、役員が責任を負うべき分として会社から役員に求償できる部分の金額

役員の悪意又は重大な過失により役員が第三者に対して負う賠償金及び和解金

また、補償契約に基づき紛争対応費用を補償した会社が、役員が自己若しくは第三者の不正な利益を図り、又は当該会社に損害を加える目的で職務を執行したことを知ったときは、役員に対し、補償した金額に相当する金銭を返還することを請求することができるものとされます(改正法第430条の2第3項)。上述のとおり、役員の重過失等がある事案での賠償金・和解金は、そもそも補償できないとされていますが、対応費用に関しては、第三者との紛争開始時から発生するもので、紛争が終わってみないと役員に重過失等があったかかどうか判断が難しいことから、さしあたりその点は問わずに対応費用を補償することはOKとしつつ、事後的に役員の悪質性が判明した場合には、補償した金額の返還を請求できるという建付になっています。

 

公開会社については、補償契約に関する一定の事項が事業報告の記載事項となります(改正施行規則第121条第3号の2)。

 

3, 会社補償

会社補償の制度は、改正法430条の2で新設された制度です。

会社法上、 「補償契約」とは、 役員等に対して改正法430条の2第1項各号に掲げる費用の全部または一部を 当該会社が補償することを約する契約のことをいいます。

 

補償の対象になるのは以下の2種の費用・損害です。

①当該役員等が、その職務の執行に関し、 法令の規定に違反したことが疑われ、又は責任の追及に係る請求を受けたことに対処するために支出する費用

 ②当該役員等が、その職務の執行に関し、第三者に生じた損害を賠償する責任を負う場合であって、

ⅰ当該損害を当該役員等が賠償することにより生ずる損失

ⅱ当該損害の賠償に関する紛争について当事者間に和解が成立したときは、当該役員等が当該和解に基づく金銭を支払うことにより生ずる損失

 

①は会社法423条の責任追及への対処の費用、例えば責任追及の訴え等の対応に必要な弁護士費用、②は会社法429条の責任によって生じる損失、などがあげられることになります。

 

なお、①の費用については、当該役員などが、自己もしくは第三者の不正な利益を図り、または会社に損害を与える目的で職務執行をしていたことを会社が 事後的に知った場合には、補償した金額に相当する部分の返還を請求できるとしています(改正法430条の2第3項)。

 

4,利益相反取引、自己代理など

今回の改正において、 会社は役員等と補償契約を締結し、役員等に生じた損害の一部または全部を保証することが明文で認められました。会社は役員等と補償契約を締結するには、株主総会の決議を得なければなりません。取締役会設置会社の場合は、取締役会の決定で締結することができます。

なお、役員と会社の取引は利益相反取引、自己代理に形式的に該当することが考えられますが、改正法430条の2第6項、7項はこれらの規定の適用を排除しています。

 

5,補償契約の補償の対象には限界があること

ただし、補償契約の補償の対象には限界があることも明記されています。改正法432条の2第2項は、以下の3つの費用・損害について、補償契約を締結して いた場合でも会社からの補償を受けられないことを明記しています。

 

・前述の①の費用のうち、通常要する費用の額を超える部分は補償することができない(改正法430条の2第2項1号)

 

・前述の②の損害のうち、役員等が第三者に生じた損害を賠償するとすれば、当該役員等が会社に対して423条1項の責任を負う場合についてはその部分については補償の対象とならない(第三者への損害賠償の基となる行為によって会社に対しても責任を負うような場合には、その部分は補償の対象にならない)

 

・②の責任のうち、役員等が職務を行うにあたって悪意・重過失があった場合には②の責任に関する損害のすべてについて補償の対象とならない

 

このように、補償契約を締結していても、すべての費用・責任が補償対象になるわけではないので注意が必要です。

 

取締役会設置会社が補償契約に基づく補償を行った場合、 補償を実行した取締役、および補償を受けた取締役は、遅滞なく補償についての 重要な事実を取締役会に報告しなければならないとしています(改正法430条の2第4項)。

 

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