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2024年04月07日
会社法の令和元年改正2-1 第2部 株主総会に関する規律の見直し  第1章 株主総会資料の電子提供制度の創設

第2部 株主総会に関する規律の見直し

 株主総会に関する規律の見直しとして、①株主総会資料の電子提供制度と、②株主提案権の濫用的行使の制限が規定されました。

 

第1章 株主総会資料の電子提供制度の創設

1,電子提供制度の導入

 旧法では、株主総会の招集通知に際し、原則として株主総会参考書類や計算書類等の資料(以下「株主総会資料」という)を書面で交付しなければならないとされています(会社法301条1項)。例外的に、株主の個別の承諾(会社法299条3項)を得た場合には電磁的方法による通知も許容されていますが(会社法301条2項、302条2項)、実務において広く利用される状況には至っていません。これらの資料を紙媒体に印刷して郵送するコストの問題が指摘されており、インターネットを活用した株主総会の電子化プロセスを促進させる必要があると認識されていました。

 電子提供制度の導入により、株主総会資料の印刷、郵送にかかる会社の負担が軽減されるうえに、紙媒体の制約がなくなることで、より充実した情報開示が期待されます。ただし、デジタル・デバイドの問題を避けるため、株主に書面交付請求権(株主総会資料を書面で提供するよう求める権利)が認められており(改正法325条の5)、依然として、紙媒体の株主総会資料制作は必要です。

 

書面で株主に送付することが原則になっている株主総会の参考書類等を、ウェブ開示で代用できるようにする制度(電子提供制度)が新設されます。株式会社は、定款で電子提供制度の採用を定めることができ(改正法第325条の2)、その場合は株主総会の招集に際して株主総会参考書類や定時総会の対象事項である計算書類等をウェブ開示することとなり(改正法第325条の3)、書面で送付する招集通知にはこれらを添付せず、掲載しているウェブサイトURL等の情報を掲載すれば良いこととなります(改正法第325条の4第2項、第3項。詳細は改正施行規則第95条の2以下)。

 

改正法325条の2は、定款に定めることにより、 株主総会参考資料等の電子提供措置を採用できることを規定しました。

 

2,電子提供措置

「電子提供措置」について説明します。 電磁的方法により、株主が情報の提供を受けることができる状態に置く措置のことです。ウエブサイトでの掲載などがこれに当たることになります。

「株主総会参考資料等」とは、改正法325条の2第1項かっこ書によると、①株主総会参考資料、②議決権行使書面、 ③437条の計算書類および事業報告、④444条6項でいう連結計算書類、を指します。

 

 電子提供措置をとる場合でも、株主総会の日の2週間前までに、株主総会招集通知を発送しなければなりません(改正法325条の4第1項)。この株主総会招集通知には、株主総会の日時・場所等のほか、電子提供措置をとっている旨が記載され(同条2項)、法務省令において、その情報を掲載するウェブサイトのアドレスを記載することが定められる見込みです。

電子提供措置をとる旨の定款の定めがある株式会社の取締役は、株主総会の招集通知を書面で行う必要がある場合 (会社法299条2項各号)には、①株主総会の日の3週間前、もしくは②株主総会招集通知の書面による通知を発した日、 のいずれか早い日から、株主総会の日後3ヶ月を経過するまでの間、改正法325条の3各号に掲げる情報について、 電子提供措置を行わなければならないとしています。

 

3,株主総会招集時の決定事項

株主総会参考書類および議決権行使書面に記載すべき事項

 

改正法325条の3各号に掲げる情報とは、以下の情報をいいます。

① 298条1項各号に掲げる事項(株主総会の日時や場所、株主総会の目的事項等)

②(書面投票ができる場合には、)株主総会参考資料記載事項および議決権行使書面記載事項

③(電子投票制度を採用している場合には、)株主総会参考資料記載事項

④(株主提案があった場合には、)議案の要領

⑤(取締役会設置会社である場合で会社召集の場合には、)計算書類・事業報告記載事項

⑥(会計監査人設置会社である場合で会社招集の場合には、)連結計算書類記載事項

⑦(①から⑥に掲げられている情報を修正した場合には、)その旨および修正前の事項

 

これらの情報を、定める措置期間にわたって、電子提供措置をとる必要があります。

 

改正法325条の4第1項は、電子提供措置をとる場合には、会社法299条1項の定める招集通知の期限について 公開会社・非公開会社の区分を問わず一律に2週間と定めています。電子提供する場合、株主総会の3週間前の日又は招集通知発送日のいずれか早い日に掲載を開始し、株主総会日から3ヶ月経過する日まで掲載を継続する必要があります(改正法第325条の3第1項)。

ここで、電子提供措置をとる会社は、株主総会の招集通知について修正が入ることについて触れておきます。

招集通知については、非公開会社は通常の場合は株主総会の1週間前でよい(取締役会非設置会社では定款で更に短縮可能 )ところ、電子提供する場合は2週間前の発送が必要となります(改正法第325条の4第1項)。電子提供措置をとる場合には、 株主総会の招集通知の送付期限について修正が入ることに注意が必要です。

 

4,書面交付制度

 

次に、電子提供措置制度を採用する会社について、インターネット等へのアクセスが困難な株主の保護も目指し、 「書面交付請求」の制度を認めました(改正法325条の5)。

 

電子提供制度をとる旨の定款の定めがある会社の株主は、会社に対して 改正法325条の3第1項各号に掲げる事項(「電子提供措置事項」と名付けられています) を記載した書面の交付を請求することができます(改正法325条の5第1項)。

この書面交付請求を受けた会社の取締役は、請求した株主に対して当該株主総会に関する 電子提供措置事項を記載した書面を交付する必要があります(改正法325条の5第2項)。 基準日制度を設けている会社の場合、基準日までに書面交付請求をした株主に限り書面交付義務があります(改正法325条の5第2項かっこ書)。

 

なお、改正法では、書面交付請求の効力の存続期間について定めがありません。

そこで、改正法325条の5第4項は、書面交付請求がなされた日から1年を経過した場合に、改正法325条の5第2項による 書面の交付を終了する旨を通知し、およびこれに対して異議がある場合には一定の期間内(「催告期間」)に 異議を述べるべき旨を、催告することができると定めています。

会社の通知した 催告期間(1か月を下回ることはできないとされています)を経過し、かつ、株主から 異議がなかった場合には書面交付請求の効力が失われることになります(改正法325条の5第6項)。

 

仮に、会社が上記通知・催告を行わないような場合には、書面交付請求の効力が存続することになるので、 請求以降の株主総会について電子提供措置事項を記載した書面を交付する必要があることになります。改正法325条の5第6項は、 書面交付請求に無制限に応じ続ける会社の負担軽減を図った規定といえます。

 

5,電子提供措置の中断

電子提供措置の中断について解説します。

電子提供措置は、会社のウエブサイト等が正常に機能していることが前提の制度といえます。 したがって、ウエブサイトが機能していないような場合には電子提供措置をとれない状態が発生することになります。

 

改正法325条の6は、このような電子提供措置が中断した場合について規定しています。「電子提供措置の中断」とは、 株主が提供を受けることができる状態に置かれた情報がその状態に置かれないこととなったこと又は当該情報がその状態に置かれた後改変されたことをいいます(改正法325条の6柱書かっこ書)。 ウエブサイトがダウンしたような場合がこれにあたると考えられます。

 

改正法325条の6は、 電子提供措置期間中に電子提供措置の中断がある場合、次の4つのいずれの場合にも該当する際、 電子提供措置の中断が、電子提供措置の効力に影響を及ぼさないとしています。

①電子提供措置の中断が生ずることにつき株式会社が善意でかつ重大な過失がないこと又は株式会社に正当な事由があること(改正法325条の6第1号)

②電子提供措置の中断が生じた時間の合計が電子提供措置期間の10分の1を超えないこと(同条2号)

③当該期間中に電子提供措置の中断が生じた時間の合計が当該期間の10分の1を超えないこと(同条3号)

④株式会社が電子提供措置の中断が生じたことを知った後速やかにその旨、電子提供措置の中断が生じた時間及び電子提供措置の中断の内容について 当該電子提供措置に付して電子提供措置をとったこと(同条4号)

 

電子提供の主な対象となる「株主総会参考書類」は、会社が書面又は電磁的方法による議決権行使を認める場合に、法定の記載事項を網羅する形で作成することが必要となる議案説明の書類であり、一般的には上場会社が使用するものです(非上場会社でも、書面等による議決権行使の許容を義務づけられる株主1000名以上の会社や、任意的に書面等による議決権行使を採用する場合は必要になりますが、例は少ないと思われます 。)。参考書類の作成が法律上義務づけられない非上場会社でも、形式上「参考書類」の題名で法定記載事項を充足しない議案書類を作成するケースがありますが、これは法律上の「株主総会参考書類」には該当しません。このため、電子提供制度は、上場会社を主なターゲットとする制度になると考えられます(後述のとおり、上場会社にはこの制度が強制されます。)。但し、定時総会の承認等の対象となる事業報告や計算書類も対象にできるため、非上場会社が定時総会でそれらをウェブ開示するという制度活用も可能と思われます。

 

 

電子提供は、電子公告と異なり、株主が閲覧できる態様であれば足ります。このため、株主に提供したパスワードで認証するページでの掲載も可能と考えられます。電子提供制度を採用している旨は、定款及び登記(改正法第911条第3項第12号の2)の記載事項となりますが、具体的なURL情報まではこれらに記載する必要はありません。

 

6,上場会社における導入

 電子提供制度は、既存の上場会社に一斉に適用される想定であり、振替株式の要件として、定款に電子提供措置をとる会社の株式であることが追加され、電子提供制度の導入が義務付けられることとなりました(会社法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(整備法)9条)。

 また、当該制度にかかる改正の施行に伴い、施行日と同時に、上場会社は、電子提供制度をとる旨の定款の定めを設ける定款変更の決議をしたものとみなされます(整備法10条2項)。

 現在の上場会社の実務においても、株主総会の日の3週間前の日までには招集通知の原稿が完成していることが多いと推察され、株主総会開催に向けた準備スケジュールが大幅に前倒しされることはないと思われます。もっとも、株主総会参考書類の内容について、より一層の充実が図られる方向で検討が進むことが予想されます。

 

なお、上記の改正は、株式振替機関などのシステム対応の準備期間を考慮し、改正法交付日から3年6ヶ月を超えない範囲において施行日が指定されることとなっており(改正附則第1条但書)、実際に制度が利用できるのは少し先となります。

 

 なお、株主総会の招集通知に際して株主に議決権行使書面を交付する場合には、議決権行使書面に記載すべき事項について、電子提供措置をとることを要しません(会社法325条の3第2項)。

 

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