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2022年12月14日
謝罪広告を命ずる判決と強制執行

謝罪広告を命ずる判決と強制執行

テーマ:民法
最高裁判所大法廷判決昭和31年7月4日

謝罪広告請求事件

【判示事項】 1、謝罪広告を命ずる判決と強制執行

2、右判決は憲法19条に反しないか

【参照条文】 民事訴訟法733

       民法723

       憲法19

【掲載誌】  最高裁判所民事判例集10巻7号785頁

       主   文

 本件上告を棄却する。

 上告費用は上告人の負担とする。

       理   由

 上告代理人の上告理由1(上告状記載の上告理由を含む)について。

 しかし、憲法21条は言論の自由を無制限に保障しているものではない。そして本件において、原審の認定したような他人の行為に関して無根の事実を公表し、その名誉を毀損することは言論の自由の乱用であって、たとえ、衆議院議員選挙の際、候補者が政見発表等の機会において、かって公職にあつた者を批判するためになしたものであつたとしても、これを以て憲法の保障する言論の自由の範囲内に属すると認めることはできない。してみれば、原審が本件上告人の行為について、名誉毀損による不法行為が成立するものとしたのは何等憲法21条に反するものでなく、所論は理由がない。

 同2について。

 しかし、上告人の本件行為は、被上告人に対する面では私法関係に外ならない。だから、たとえ、それが1面において、公法たる選挙法の規律を受ける性質のものであるとしても、私法関係の面については民法の適用があることは勿論である。所論は独自の見解であって採るに足りない。

 同3について。

 民法723条にいわゆる「他人の名誉を毀損した者に対して被害者の名誉を回復するに適当な処分」として謝罪広告を新聞紙等に掲載すべきことを加害者に命ずることは、従来学説判例の肯認するところであり、また謝罪広告を新聞紙等に掲載することは我国民生活の実際においても行われているのである。尤も謝罪広告を命ずる判決にもその内容上、これを新聞紙に掲載することが謝罪者の意思決定に委ねるを相当とし、これを命ずる場合の執行も債務者の意思のみに係る不代替作為として民訴734条に基き間接強制によるを相当とするものもあるべく、時にはこれを強制することが債務者の人格を無視し著しくその名誉を毀損し意思決定の自由乃至良心の自由を不当に制限することとなり、いわゆる強制執行に適さない場合に該当することもありうるであろうけれど、単に事態の真相を告白し陳謝の意を表明するに止まる程度のものにあっては、これが強制執行も代替作為として民訴733条の手続によることを得るものといわなければならない。そして原判決の是認した被上告人の本訴請求は、上告人が判示日時に判示放送、又は新聞紙において公表した客観的事実につき上告人名義を以て被上告人に宛て「右放送及記事は真相に相違しており、貴下の名誉を傷け御迷惑をおかけいたしました。ここに陳謝の意を表します」なる内容のもので、結局上告人をして右公表事実が虚偽且つ不当であつたことを広報機関を通じて発表すべきことを求めるに帰する。されば少くともこの種の謝罪広告を新聞紙に掲載すべきことを命ずる原判決は、上告人に屈辱的若くは苦役的労苦を科し、又は上告人の有する倫理的な意思、良心の自由を侵害することを要求するものとは解せられないし、また民法723条にいわゆる適当な処分というべきであるから所論は採用できない。

 よって民訴401条、89条に従い主文のとおり判決する。

 この判決は、上告代理人阿河準1の上告理由3について裁判官田中耕太郎、同栗山茂、同入江俊郎の各補足意見及び裁判官藤田8郎、同垂水克己の各反対意見があるほか裁判官の一致した意見によるものである。

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